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課題2:データ駆動型気象制御器の設計

橋本 和宗/Hashimoto Kazumune
大阪大学大学院工学研究科電気電子情報通信工学専攻 講師

Interview

Q1 先生のご専門について教えてください。
システム制御理論という分野を専門にしています。
システム制御理論とは、自動車やロボット、ドローンなど様々な対象を自律的に制御するための数学的な枠組みです。例えば、ドローンを所望の目的地まで制御したい、あるいはロボットアームをある望ましい角度まで制御したい、というのが一番シンプルなシステム制御理論のゴールといえます。
より実用的な例としては、自動車や航空機などの自動運転があります。自動運転では、GPSやLidarといった様々なセンサを用いて周囲の環境情報を収集し、その情報を基に、ハンドル操作やアクセル操作を行います。そのような意思決定の役割を担う「頭脳」を構築するのがシステム制御理論の主な目標です。

Figure : What is Control Theory?
システム制御理論では、このような「頭脳」を構築するために、数理モデルと呼ばれるものを活用します。これは、対象の物理量(例えばロボットの位置や車の速度)が時間的にどう変化するのかを表す微分方程式です。少し難しいかもしれませんが、高校の物理で習う運動方程式(F=ma)を例に考えてみれば分かりやすいと思います。つまり外から加える力に対し、位置や速度、加速度といった物理量がどう変化するのかを数学的に記述する運動方程式は数理モデルの一つと言えます。
このような微分方程式を数学的に解析し、制御したい対象にどのような外力を与えれば最も望ましい振る舞いが得られるのかを考えていくのがシステム制御理論です。
Q2 システム制御理論の面白さはどんなところですか。
それは、汎用性が高いところです。
例えば、システム制御理論で考えられたある手法をロボットにもドローンにも適用できます。このように全く同じ手法を様々な対象に適用できるところが一番の魅力だと思っています。システム制御理論を学んだ学生は、宇宙や自動車、ロボット産業など様々な分野で活躍しています。

制御工学自体は、産業革命あたりから始まり蒸気機関車などにも使われるなど、歴史があります。今のように計算機が発達していなかった7,80年前に考えられた理論が、現代になって掘り起こされて脚光を浴びることもあります。時代が進むにつれてトレンドが変わり、昔はあまり注目されなかったような理論が今になって注目されるようなこともあるため、最近の論文だけでなく昔の論文を読むことも重要です。また、今取り組んでいる制御理論が将来注目される可能性もあります。この点も奥が深くて面白いと思っています。
Q3 担当されている研究課題について教えてください。
システム制御理論において考えられている様々な理論や手法を気象制御に適用できるかどうかの検討を行っています。
ムーンショット目標8のプロジェクトでは、台風や豪雨といった気象に何かしらの外力を加え、台風の軌道を変えたり、勢力を弱めたりという気象をコントロールすることを主な目標としています。この目標はまさに、私が専門とするシステム制御理論の目標、つまり「制御したい対象に適切な外力を加えて、望ましい振る舞いを得る」という目標に一致しています。

私はシステム制御理論において考えられている様々な理論や手法を気象制御に適用できるかどうかの検討を行っています。システム制御理論を用いることで、例えば、台風といった気象に対し、「どのような」外力を「どれぐらい」加えれば、効率的に勢力が弱まるといったようなことが数学的に明らかになります。
Q4 現在の研究の壁はどのような点ですか。


気象に関する数理モデルは非常に複雑かつ膨大な状態数を持っているため、従来のシステム制御理論を直接適用すると、計算コストが大きくなってしまいます。
そのため、既存の手法を直接気象制御に適用することは難しいと考えています。

そこで本研究課題では、物理システムが持つ状態数を削減するモデル低次元化の検討を行っています。これは、膨大な状態数を持つ微分方程式を、少ない状態数のみから構成される微分方程式を用いて近似するというものです。そして得られた低次元の微分方程式に対してシステム制御理論の手法を適用し解析することで、意思決定の役割を担う「頭脳」の設計に必要な計算コストを削減することができます。

一方で、ただ単に状態数を適当に削除して低次元化を図ればよいというのではなく、元の高次元のシステムの特徴的な振る舞いをある程度保持できるように、上手く低次元化を行う必要があります。ここが一番の課題で、今までシステム制御理論が考えてこなかった気象という対象に、どのような低次元化のアプローチが使えるか、どのぐらいの誤差を許容したうえで低次元化を行うか、といったようなことを検討していく必要があります。


Figure : What is (data-driven) model reduction?
Q5 今回の気象制御を目標としたプロジェクトに、課題推進者の一人として参加するにあたり、どのようなことを意識していますか。
システム制御理論という別の専門分野の視点から物事を考えられますので、気象に関する固定観念にとらわれない、新しい発想が提供できるのでは、と思っています。
私は気象の専門家ではありませんが、それは逆に良いことだと思っています。システム制御理論という別の専門分野の視点から物事を考えられますので、気象に関する固定観念にとらわれない、新しい発想が提供できるのでは、と思っています。

まずは気象という対象をある程度意識しつつも、それに固執しすぎないように、⾃由な発想で課題に取り組みたいと思っています。

また、システム制御理論の分野を専門としていて、気象という自然現象を制御しようとするのはおそらく私だけです。これはとても挑戦しがいのあることで、もしシステム制御理論を使って気象を制御できたという研究成果が得られれば、システム制御理論に大きなインパクトをもたらすと考えています。
Q6 ムーンショットの目標年である2050年は、どのような世界になっていると思いますか?
より豊かな社会になっていることを期待しています。
私は制御を専門としていますので、その観点から述べさせていただきます。2050年は自動車やロボットなどあらゆるものがインターネットにつながり、そして自動化される世の中になっていると思います。また、各家庭に一台ロボットがいて家事や育児の手伝いをしてくれるなど、今現在に比べ、より豊かな社会になっていることを期待しています。

最近、自動運転の安全性が問題視されていますが、その課題を解決する技術も徐々に開発されていますので、2050年までにはそのような安全性に関する技術は体系化されると考えています。

一見、これらの安全性の技術は気象制御とは関係ないように思えますが、私は大きくつながっていると思っています。例えば、安全性を保障する制御手法がより体系化されれば、それらの理論を援用することで、例えば大きな災害をもたらすような台風も制御できるかもしれません。このような観点からも、2050年は今現在に比べ交通事故や災害の少ない、より安全・安心な社会が実現できると考えています。
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Systems
課題8:2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
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Coupling/Control Systems